第2回 タロとジロは、何もない南極で、何を食べて生き延びたのか? PART1
南極に置き去りにされ、全滅と思われていた15頭のカラフト犬。ところが1年後、タロとジロが生きたまま発見されました。世界中が驚き、喜んだのですが、やがて、みんな不思議に思い始めます。
南極には食べ物がない。越冬隊員用の余った食料は、昭和基地内部に厳重に保管されていました。荒らされた形跡はなかったのです。一方、犬用の食糧はすぐに食べられるように外に置いてあったのに、食べた形跡がまったくない。これはとても不思議なことでした。
じゃあ、タロとジロは、いったい何を食べていたんだろう?
この謎は、当時、新聞や雑誌で様々な人物が推理しては発表しました
- 手っ取り早くペンギンを食べた説➡ 第1次越冬中に、実はカラフト犬の何頭かは、ペンギンを襲いました。そして食べようとしたのですが、吐き出しました。まずかったのでしょう。その後も、ペンギンを襲うことはありましたが、食べたことはありません。そんなにまずいのなら、簡単に食べられる犬のエサを食べたはず。また、タロとジロが救出された昭和基地周辺でペンギンの遺体が発見されましたが、やはり食べた形跡はありませんでした。つまり、この説は消えたのです。
- アザラシを襲って食べた説➡ 南極には何種類かのアザラシがいます。しかし体重400キロの巨体です。体重40キロ前後の犬が仕留めるのは不可能。しかもアザラシがいる場所の近くには、必ずアザラシが海中から氷上に上がってきた穴があります。そこに落ちたら寒さで即死します。非現実的ということで、この説も消えました。
- このほか、南極にいるトウゾクカメモという鳥をジャンプして捕まえた、とか、氷に閉じ込められた魚を爪でほじくって食べたとか、「そんなわけ、ねーだろ」というマンガみたいな説もありましたが、当然すぐに消えました。
- 結局、日本国民が「嫌だなあ」「想像したくない」と思いながらも「ひょっとしたら、そうかも」と信じたのが「共食い」説です。南極に、鎖につながれたまま置き去りにされたカラフト犬は15頭。タロとジロは首輪を抜け出して助かりましたが、抜けられずに飢え死にしたり、凍え死んだ仲間の犬たちがいました。タロとジロは、その仲間の遺体を食べて、生き延びたのだ!という説が、なぜか真実のように広まったのです。
人は、残酷な話が好きです。猟奇的な話が好きです。ヒーローみたいにもてはやされたタロとジロをひがむ人だっていたでしょう。そういう人は、こうした話に飛びつきます。「共食い」。しかし実は、その説は完全に否定されているのです。
置き去りから1年たった1959年。第3次越冬隊が南極・昭和基地に到着。懸命の捜索の結果、タロとジロを除く13頭のうち、7頭は遺体で見つかり、6頭は首輪だけが見つかりました。6頭は、どこかに逃げてしまったと判断されました。
1年前に、徐々に雪に埋もれ、死んでいった7頭の遺体は、越冬隊の医師たちの手で検分が行われました。死因を突き止めるためです。その鑑定過程で、死亡した犬たちには食べられた跡はなかったことが確認されています。タロ、ジロと奇跡の再会を果たした北村泰一隊員も、そのことは確認しており、証言しています。
ただ、この事実は一般にはあまり知られておらず、新聞にもそういう記事はありません。大々的に公表しなかったのは理由がありますが、これは別の機会にお話しします。とにかく、共食いはなかった。ただ、日本国民は知らないままだった。
こうして、何十年にもわたって「タロとジロが助かったのはいいが、それは仲間の肉を食べたからなんだってさ」「えーっ、それって共食いじゃん。ショック~」といった、誤った情報が拡散し、今でも「タロジロは共食いしたんだ」と思っている人がいます。
物事をしっかり検証しないと、とんでもない誤解をしたままになる、という典型的な例です。
タロとジロの名誉のためにも、このコラムを読んだ方は「タロとジロは、共食いして生き延びたんじゃないよ」と、友だちや家族に伝えてください。
「じゃあ、いったい何を食べてたの?どこに食べ物があったの?」――当然の疑問です。
実は、タロとジロは、ステーキや魚やバター、チーズをたっぷり食べていたのです。
そして、そうした高カロリーの食糧を見つけ、タロとジロに与えた「第3の犬」がいたのです。(written by Free Dog)
(次回は、タロとジロが食べていたものは、いったいどこにあったのか。「第3の犬って?」について、お話しします。不定期掲載)
【ミニ解説】 日本の南極第1次越冬隊は多くの犬を南極に連れて行った。しかし1年後、2次越冬隊との交代に失敗。結局15頭を鎖につないだまま南極に置き去りにした。全滅したと思われていたが、1年後、なぜかタロとジロの2頭は生きていた。世界中が驚き、「タロジロの奇跡」と言われている。
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